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第23話 最初から分かっていた

last update publish date: 2026-07-25 20:00:00
「ただ──非効率なことが、嫌いなので」

黒瀬さんは、コーヒーカップの縁を指でなぞってから続けた。

「これ以上、お互いに不毛な探り合いをする時間は無駄でしょう。あなたが誰なのか、教えてもらった方が話が早い」

背筋を、氷で撫でられたような感覚が走った。

「実は、最初から分かっていました。あなたが彼女ではないことを」

テーブルの上の白いカップ。漂うコーヒーの香り。窓の外の葉桜。全部が、一瞬だけ遠くなった。

──最初から。

この人は、最初から分かっていた。

お見合いの席で、噛みそうになりながら「西園寺……真帆です」と名乗ったあの瞬間から。

あの時、彼の口の端がかすかに動いたのを見た。笑ったのか、気づいたのか、ずっとわからなかった。あれは、知っていたということだったのか。

コリアンダーを、さりげなく避けてくれた時。一言も言わずに気遣ってくれたあの動作の奥に、すでに「偽物だ」という確信があったのか。

雨の夜、傘を差し出してくれた時。「今度、返してください」と言った、あの迷いのない声も。

懇親会で「西園寺さん」と、姓だけで呼んだ時。

全部、知っていて──黙っていた。

『社長はあなたのことを──』

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  • 身代わりお見合いの花嫁〜冷徹社長は偽りの愛を見抜いている〜   第3話 見透かされる嘘

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    ゆっくりと扉を開け、一歩足を踏み入れた瞬間、思わず立ち止まりそうになった。高い天井に広がる、クリスタルのシャンデリア。香ばしいコーヒーの香りと、白く気高く咲き誇る大輪の胡蝶蘭。磨き上げられた大理石の床に、自分が履いている安物のヒールの音がカツカツと不躾に響く気がして、それだけで萎縮しそうになる。場違いにもほどがある……。心の中で小さく呟き、緊張で強張りそうになる手を、そっとドレスの上の膝に置いた。ここで怯んだら、一瞬で「偽物」だと見破られてしまう。案内された席に着いた瞬間、背筋が自然と真っ直ぐに伸びた。膝を揃えて座る。手をテーブルに乗せない。視線を落としすぎないように前を向く。

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